第二話

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 まさか張本人に筒抜けだとは思っていないであろう二人の笑い声が、扉越しに響いてくる。  ───機械的、か。  正にプログラムされた機械のようにスラスラとカルテを記入する手を動かしながら、英司は小さく息を吐く。  医者は、基本的に患者の前で感情を露わにすることはないし、するべきではない。  大規模な病院になるほど、一日に向き合う患者や症例の数は膨大だ。病気やケガに悲しんだり不安を覚える患者に、その都度感情移入していては、医者という仕事は務まらない。  そもそも、病気やケガを喜ぶ患者などまず居ないのだから、患者やその家族が感傷的になる分、医者は常に平静でいる必要がある。そうでなければ、客観的かつ冷静な判断が出来なくなるからだ。  英司は、子供の頃から感情表現がそう得意な方ではなかった。感情の起伏があまりない、という方が正しいかも知れない。  喜怒哀楽がないというわけではないのだが、同じ年頃の子供たちが大声を上げて走り回っているのを、いつも一歩下がって見ているような子供だった。  大勢で集まって遊ぶより、一人で静かに本を読んだりする方が好きだったし、友人と呼べる人間も居るには居るが、わざわざ休日に誘い合って出掛けるような付き合いはしない。     
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