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扉を出たすぐ脇に自販機と喫煙スペースがあるのだが、万年人手不足な上喫煙者のスタッフがほとんど居ないので、ここは大抵貸し切り状態だ。
自販機でブラックコーヒーを買い、ベンチに腰掛けようとした英司は、視界の隅に映った黄金色に、持っていた缶を思わず落としそうになった。
思い出して苛々とし過ぎた所為で、幻でも見ているのではと思ってしまう。いや、むしろそうであって欲しかった。
どういうわけか、芳が病院の職員駐車場に立っている。しかもそこは、英司の軽自動車の前だ。
もう二度と関わりたくないと思っていたのに、まさか半日もしない内に再び顔を合わせる羽目になろうとは。しかも何故こんなところで。
「……僕は役場に行くのを勧めたはずだけど」
不信感と不機嫌を滲ませて睨み据える英司に、芳は狐色の髪を揺らして相変わらずヘラリと緊張感のない笑みを寄越した。笑うと本当に狐みたいだ。
「一応行くには行ったよ。でもなんか小難しいこと言われて、途中でよくわからなくなっちゃってさ。その後商店街ブラブラしてたら、なんかあちこちの店の人が声掛けてくれたんだよね」
住民は全員顔見知りと言えるくらい、小さな数田美町。そこを、こんな派手な見た目の余所者が歩いていたら、当然目立つに決まっている。
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