第二話

8/24
前へ
/233ページ
次へ
「あ、コレ? 何となく英ちゃんが働いてる病院、気になってさ。たまたま病院から出て来た人に英ちゃんのこと聞いたら、ここの駐車場で待ってたらその内出て来るんじゃないかって言われて、じゃあ暇だしちょっと待ってみるかーと思って」  ……ご丁寧に車まで教えた誰かさんを二十四時間問い詰めたい。  こめかみを引き攣らせながら、辛うじて怒りを抑え込んで、長い息を吐く。こんなにも自分を苛立たせた相手は、どれだけ記憶を辿っても芳が初めてだ。  極力他人と適度に距離を取りたい英司にとって、芳のようにマイペースに踏み込んでくる人間は最も苦手だ。おまけに「英ちゃん」という馴れ馴れしい呼び名もいちいち癇に障る。だがどうせ指摘するだけ無駄な気もして、聞き流すことにした。 「ここは職員専用の駐車場だから、基本的に部外者は立ち入り禁止だよ。それに、病院は嫌いだって言ってなかった?」 「まあ、病院の中じゃないし。それにしても英ちゃん、白衣似合うなー。ザ・医者!、って感じ」  立ち入り禁止という部分は都合よくスルーして、呑気な声を上げる芳に、一時忘れかけていた桜井たちの話声を思い出す。  眼鏡の奧の目を細めて、英司は自嘲気味に薄く嗤った。 「冷徹で血も涙もない、機械みたいな医者だからね。病院内じゃなくても、僕には貴方が大嫌いなアルコールの匂いが、嫌ってほど染み付いてるよ」     
/233ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2652人が本棚に入れています
本棚に追加