第二話

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「ちょ、ちょっと待った。俺なにもそんなこと言ってない……ってか、なんか英ちゃん、ピリピリしてる? 勝手に入ったことなら謝るよ、ゴメン。看板とか何もなかったから、わからなかった」  正体不明の男に職場まで押し掛けられ、その上勝手に車に近付かれて、それを笑い飛ばせるほど広い心は持ち合わせていない。おまけに会う前から苛立っていたのは事実なので、それをよく知らない芳に見抜かれたことにも腹が立った。 「貴方がここに来たことは今更仕方がないから、今後二度と来ないでくれればそれでいい。この町から早く立ち去ってくれればもっといいけどね。番が居るΩなら、早くパートナーの元に帰らないと困るのは貴方の方だと思うけど」  勢い任せに吐き出した英司の言葉を受けて、そこで初めて芳の顔からスッと笑顔が消えた。  しまった、と英司もらしくない失態に僅かに視線を背ける。  英司の傍に纏わりつかれるのは迷惑だが、彼とそのパートナーに関して口を出すのは筋違いだ。これでは芳のことをどうこう言えない。 「……番ってんの、やっぱバレてたか。英ちゃんαだし、そりゃわかるよなー。でもゴメン。ちょっと色々事情あって、帰れないんだわ」  髪で隠れている項を更に隠すように、芳が苦笑しながら掌で傷痕を擦る。その声音は本当に困惑している様子で、英司も少しばかり毒気を抜かれてしまった。     
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