第二話

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 番、と一言で言っても、恋人たちがやがて結婚するように、互いに想い合って生涯を共にするという甘いものばかりではない。無理矢理番わされてしまうΩも居るし、中には『運命の番』なんていう、互いの意思や感情など一切関係なしに、本能で惹かれ合って番わざるを得ない場合もあると聞く。  芳がどのケースに当てはまるのかはわからないが、わざわざ一人でこんな場所までやってきたということは、少なくともパートナーとそう良好な関係ではないのだろう。 「帰れないって、ずっとこの町に留まるつもり?」 「んー……ぶっちゃけ、ここに来たときはホントに何もかもどうでも良かったんだよ。ただアイツから離れられるなら何でもいいって、それしかなくてさ。かと言ってここに長居するつもりもなかったけど、金は尽きるし、周りは親切だしで、ちょっと居心地良くなっちゃって困ってる」 「貴方がどうするかは勝手だけど、一住民として言わせてもらえば、この町でトラブルだけは起こしてほしくない」 「それなんだよなぁ……。わざわざこんなトコまで追い掛けてくるとも思えないけど、折角親切にしてもらったのに恩を仇で返すの、俺もやだし。……いっそ、俺がもう死んじゃったってことに出来ればいいんだけどな。英ちゃん、医者の力で俺の存在消したり出来ない?」  今にも消えそうな儚い声で呆気なくそんなことを口にする芳の胸倉を、英司は気付けば思いきり掴み上げていた。     
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