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隙間から雑草の伸びた石畳を進み、足音を殺して裏側へ回ってみると、地面から一メートルほど高くなったお社の縁の部分に、こんもりとした影が横たわっていた。
ちゃんと人間だったのか、と馬鹿げた感想を抱きつつ静かに近づいてみると、今日貰ったらしいダウンジャケットに包まるようにして、芳が身体を丸めて寝転がっていた。微かな寝息が聞こえてきて、思わずホッと息が漏れる。
よくもこんな寒い中で眠れるものだ。
別に運動が苦手というわけではないが、アウトドアとは縁遠い英司には、そもそも外で寝るということ自体理解し難い。
こんな状況に慣れているなんて、一体どういう環境でこれまで過ごしていたのだろうか。
英司に背を向ける格好で横になっている芳の髪が床に流れ、細い項に刻まれた番の証がくっきりと見てとれる。
芳が『アイツ』と呼んでいた、この傷痕の主。後先も考えず逃げ出してきた上に、自身の存在を消して欲しいとまで言わせるパートナーというのは、どんな相手なのか。
───いや、そんなことはどうでもいい。
突然フラリとやってきた馴れ馴れしい男の番相手がどんな人間だろうと、英司には関係のないことだ。番っている以上、例えその関係性がどうであれ、それは当人同士の問題であって、周囲が口出し出来ることでもない。
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