第二話

22/24
2631人が本棚に入れています
本棚に追加
/233ページ
 芳に出会っていなければ、掴みかかるほどの苛立ちも、この町で医者を続ける道を選んだ理由も、得体の知れない感情も、きっと知ることはなかっただろう。  ───どうして、出会ってしまったんだ。  こんな田舎で。  Ωなんて一人も居ないこの町で。  いつもなら誰も居ないはずの早朝の神社で。  視界に入るとどうしても目が行ってしまう傷痕を隠すように、英司は何とはなしに剥き出しの項へそっと掌を宛がった。  その瞬間。 「───っ!」  ビクッ、と大袈裟過ぎるほど全身を大きく跳ねさせて、芳が勢いよく跳ね起きた。  零れそうなほど見開かれた瞳に、尋常じゃなく強張った顔。暗がりでもその顔が青褪めているのがわかって、英司も思わず言葉を失った。  英司の姿を認識したらしい芳が、驚きを誤魔化すように、すぐに薄っぺらい笑みを浮かべた。 「ビックリした~……誰かと思ったじゃん。寝込み襲うとか、英ちゃん思ったよりケダモノだね」 「貴方は相変わらず、そういう物言いしか出来ないのかな」  何となく、触れてはいけない部分に踏み込んでしまった気がして、英司も何でもない体を装って呆れた声を返す。  だが、脳裏には明らかに何かに怯えきっているような芳の顔が、しっかりと焼き付いていた。     
/233ページ

最初のコメントを投稿しよう!