第二話

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 どうやら他の住民たちには上手く溶け込んでいるようだし、わざわざ英司が世話を焼く義理もない。  けれど、英司は芳の細い手首を捕らえて、強引にお社から引き摺り下ろした。驚いてよろけた芳の肩から滑り落ちたダウンジャケットが、バサリと地面に落ちる。 「え、英ちゃん……?」  掴んだ手首は、すっかり冷えきっていた。少し脈が速いのは、動揺している所為だろう。 「山に捨てられたくないなら、ついて来て」  唖然としている芳の代わりに落ちたダウンを拾い上げて、英司は掴んでいた手首を解放すると、先に石段の方へ歩き出す。少し遅れて、パタパタと芳が追いかけてくる足音がした。  明らかに厄介事を抱えていそうな芳にこれ以上関わらない方がいいと、英司の理性が警鐘を鳴らしている。  だがこのままフラリと芳が町から去ってしまったら、父に言われた英司の医者としての信念まで、見失ってしまうような気がした。
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