第三話

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 事態が把握出来ていない様子の芳に言い置いて、先に車を降りる。  ここまでくる道中もそうだったが、小屋の周囲も伸び切った雑草に覆われていた。好き放題に背丈を伸ばした雑草たちが、この小屋の時間が止まってからの年月を表している。 「ここ、何……? 誰かの家?」  助手席から降りてきた芳が、人の気配もない静かな小屋を見詰めながら英司の隣に並んだ。 「僕の親戚の家。とは言っても、もう何年も前に亡くなってるから、今は誰も住んでないけどね」  ここにはかつて、祖父の弟が暮らしていた。独り身だった彼は林業を営んでいて、暮らしていたというよりは、作業小屋として使用していたこの場所に、いつも寝泊りしていたと言った方が正しいかも知れない。  そんな彼が心筋梗塞で亡くなったのは、今からもう五年以上前のことだ。葬儀の後、せめてもの供養にと親族一同でこの場所を訪れたのが、英司にとってはこの小屋を見た最後の記憶だった。  小屋自体は、家と呼ぶには余りにも質素な造りだ。入り口の扉には鍵すらついておらず、それは平和な田舎の象徴でもあった。     
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