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主を失ってからは、扉の脇に打ち込まれた太い釘に、ドアノブを固定するようにワイヤーが巻き付けられているが、恐らくそんなものが無くても、きっとこの小屋に近付く人間なんて居ないだろう。
ただでさえ便利とは言えない田舎町の、更に寂れた場所にポツンと建つ古びた小屋へ、わざわざ立ち入ろうとする者はこの町には居ない。
そもそも親族の英司ですら、毎年祖父の弟の墓参りには行っているというのに、この小屋の存在は既に忘れかけていた。宿無しの芳に出会ったお陰で、いつだったか、祖父が放置されているこの小屋をどうしようかと零していたのを思い出したのだ。
「ドアもぐるぐるに固定されてるけど、こんなとこ連れてきてどうするつもり───」
怪訝そうに英司の方を見た芳が、言葉の途中でギョッと目を丸くした。英司が、車の後部座席からバールを取り出したからだ。
「えっ、待って、なんでそんな物騒なモン持ってんの!? 英ちゃん、山に捨てたりしないって言ったじゃん!?」
「勿論、遺棄なんてしないよ。貴方みたいな派手な男、転がしておいたら目立って仕方ない」
「遺棄って言うのやめて!? 英ちゃんが言うと洒落にならないから!」
芳が降参とばかりに、両手を上げて小屋の方へ後退る。構わず英司が距離を詰めると、やがて芳の背中が小屋の扉にぶつかって行き詰った。
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