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「す、ストップ! 取り敢えず、一旦落ち着こう!? 俺が何かしたなら謝るし、それともまだ俺のこと怪しんでるなら、聞きたいことあれば話すから……!」
どうやら英司の持つバールが完全に凶器に見えているらしい芳が、焦った様子でどうにか宥めようとする。
───おかしな人だ。
昼間は呆気なく自分の存在を消して欲しいなんて言っておきながら、山中でバールを手に追い詰められれば、必死で命乞いをする。
彼の本音は、一体どちらなのか。本当は何を消して欲しいと望んでいるのだろう。
動揺する芳の目の前に立った英司は、冷静な瞳で彼を見下ろしたまま、バールを持つ手をゆっくりと振り上げた。
ヒッ、と小さく悲鳴を上げて、芳がドアに張り付くようにしながら顔を強張らせる。ヘラヘラ笑っているときよりも、こうして怯えている芳の姿の方が、何となく本来の彼に近いような気がして、もっと見ていたくなる。
敢えて顔色を変えないまま、英司は静かに口を開く。
「下手に動くと、却って痛い思いするよ。ジッとしててくれれば一瞬だから」
「注射みたいに言ってもダメ! 英ちゃん、頼むから待っ───」
彼の言葉を待たずに、英司は持っていたバールを振り下ろした。───ワイヤーが固定された、太い釘目掛けて。
ガツッ、という鈍い音が、静まり返った木々の間でこだまする。
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