第三話

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「噂には聞いてたけど、ホントに派手な子だよね。しかも私の顔見るなり『もしかして英ちゃんのお姉さんか妹さん?』って聞かれて、ビックリしたよ。子供の頃はともかく、大人になってから英司と似てるって言われること、あんまり無くなったのに」  喜んでいいんだか、と英里が苦笑しながら缶のプルタブを引き開ける。  芳の方は散々町内で噂になっているので、姉が一目で気づくのはわかる。だが、芳が英里を一目で英司の姉だと見抜いたというのは、正直英司も驚いた。  姉弟なので二人並んでいればそこそこ似ている部分もあるが、既婚者の姉は胸元の名札も新しい性の『澤口』になっているし、英司は姉の存在を芳に話したこともない。 「……それで、何か話したの」 「別に? 姉です、って答えたら『英ちゃんにいつもお世話になってます』ってそれだけ言って走り去っちゃった。三井青果店手伝ってるって聞いたことあるけど、自転車のカゴに段ボール積んでたから、配達中か何かだったんじゃない? それより英司、あの子に『英ちゃん』って呼ばれてるんだねぇ」  出来れば流して欲しかったところに案の定食いつかれて、英司はげんなりと顔を顰める。その顔を見た英里が、くつくつと押し殺した笑い声を漏らした。 「英司にしては珍しいじゃん。あの山小屋、あの子の宿にしてあげてるんでしょ? 父さんも『いきなり小屋を譲って欲しいなんて、一体どういう風の吹き回しかな』なんて首捻ってたよ」     
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