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「父さん、僕の前では何も言ってなかったけど」
「父さんなりに気遣ってんじゃないの。だって英司が他人にそこまで干渉することって、今までなかったしさ」
「どうせなら、若い人に管理してもらった方がいいと思っただけだよ」
「ふぅん……まぁ、英司がそう言うならそれでいいけど。……でもあの子、番ってるでしょ」
英里の声のトーンがほんの少し低くなって、英司も缶を握る指先に軽く力を込めた。
姉もαだ。芳がΩであることに、気付かないはずはない。
「この町の人は全然気にしてないだろうけど、番の居るΩが一人で行くアテもなくやって来るなんて普通じゃない。あんただって、まさかそれに気付いてないわけじゃないよね? あの子がどうしてこの町に来たのか知らないけど、番ってる以上、長い間パートナーと離れているなんて簡単に出来ることじゃないよ」
「………」
そんなことは、言われなくてもわかっている。
だから英司は、自分にとって何のメリットもない強引な取引を芳に持ち掛けた。それは、情という不確かであやふやな繋がりを持ちたくなかったからだ。
英司にとって、芳は単なる取引相手だ。
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