第三話

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 素性もよくわからない芳に店を手伝わせたり、施してやったりしている商店街の人たちのように、善意で世話を焼いているわけではない。  そう言い聞かせていなければ、腹の底から次々に味わったことのない感情が湧き出してきそうだった。唯一の相手が居る芳には、決して抱くべきではない感情が───。 「……僕は別に、野宿して野垂れ死にされるのが御免だっていうだけだよ」  機械的に答えて、英司は静かに腰を上げると空き缶を自販機脇のゴミ箱へ放り込んだ。そのまま院内へ引き返す英司の背中に、ボソリと零された英里の呟きが届いた。 「……運命って、残酷だね」  夜診を終え、病院を出た英司は、その足で山手へと車を走らせていた。  昼に交わした英里とのやり取りが、それ以来ずっと頭から離れなかった。  芳がいつまでもこの町に居られないことくらい、英司にもわかっている。芳はパートナーとの間に何らかの事情を抱えているようだし、その揉め事を持ち込まないで貰いたいという思いもある。  なのに、昼間姉から報告されたように、患者や町の誰かから芳の話を聞くたび、彼がこの町でマイペースに過ごしていることにどこかホッとしている自分が居る。  続くはずのない時間。  そんなものを願ったところでどうしようもない。     
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