第三話

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 倒れている芳の姿に驚いたのと、それから芳が居なくなっていなかったことへの安堵と。それらがない交ぜになった叫び声と共に、英司は伸びた草を払い退けるようにして駆け寄った。 「……英、ちゃん……?」  苦しげに胸を喘がせて浅い呼吸を繰り返しながら、芳が絞り出すような声で英司の名を呼んだ。  咄嗟に脈を取ろうと芳の手首を掴んだ瞬間、 「待って……! 触らな───っ」  慌てた様子で身を起こしかけた芳が、言い終わらない内に地面に嘔吐した。 「牧野さん!?」 「ゲホッ……、ごめ……ちょっと、触んないで……」  弱々しく英司の手を振り払い、這うように英司から少し距離を置いて、芳は再び苦しそうに地面へ転がった。 「……こうなる前に、出てかなきゃ、いけなかったのに……間に合わなかった。……ごめん」  芳のその言葉と、荒い呼吸。それに、さっき一瞬触れた手首の、異様な熱さ。  それらがやっと英司の頭の中で組み合わさって、一つの答えに繋がった。───発情期だ。  本来、発情したΩから強く放たれるはずのフェロモンが感じられなかったので、すぐには気付けなかった。  だがそれも当然だ。番の居る芳のフェロモンに、英司は反応しないし、気付けない。芳が英司から離れたのも、彼の身体がパートナーではない英司を強く拒んでいるからだろう。     
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