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抑制剤は内服薬もあるし、それなら英司が触れる必要もないのだが、そちらは薬が効くまでどうしても時間がかかってしまう。それまで芳を地面に寝かせておくのも気掛かりで、英司は敢えて即効性の高い点滴を選択した。
番の居るΩは、そうでないΩに比べると抑制剤が効きにくい。番うことにより、フェロモンの分泌に変化が生じる為だ。それにパートナー以外の人間を惹き付けることも無くなるので、番ってからは抑制剤を服用しないΩも多い。
点滴を開始して少ししてから、芳はどうにか這って小屋の中に戻ってくることは出来たものの、それでもやはり大して効き目はないのか、三十分近く経った今も、かなり辛そうにしている。
「英ちゃん……勝手にこんなことして、怒られないの……」
気怠げに英司の方へ顔を向けて、芳が弱々しい声音で問い掛けてきた。
「急患への応急処置だから、問題ないよ」
英司はそう答えたが、本当なら、よほどの事情がない限り、Ωの発情期に医療行為は必要ない。
そもそも発情期は病気ではないし、その症状を抑える方法も明確だからだ。特に芳のように番の居るΩなら、パートナーとの性行為。これしか対処法はない。
本来なら警察に事情を話し、芳をパートナーの元へ返してもらえば、彼の苦痛も取り除ける。……芳とそのパートナーが、一般的な番であるなら。
だが、芳の場合はきっとそうではないし、何より彼自身がパートナーの元へ戻ることを望んでいない。
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