第四話

3/26
2601人が本棚に入れています
本棚に追加
/233ページ
 だから英司は医者として、せめて自分に出来ることをするべきだと思った。例え芳の苦痛を、ほんの僅かしか和らげてやれないとしても。  決して満たされることのない身体を持て余して胸を喘がせる芳を見ていると、考え無しにフラフラとやってきた軽率な男、という印象は、最早すっかり失せてしまった。  これほど苦しい思いをしても芳が戻りたがらないのは、彼がΩとしての快楽よりも、人としての何かを求めているからだろう。  そんな芳を軽率な人間だと思っていた自分を、英司は密かに悔いた。 「……そういえば、今日、英ちゃんのお姉さんに、会ったよ」  途切れがちの声で、ふと芳がそんな話題を口にした。  話すのも辛いだろうと思うのだが、もしかすると少しでも、発情する身体から意識を逸らしたいのかも知れない。 「姉から聞いたよ。よく、僕の姉だってわかったね。今は結婚して苗字だって違うのに」  英司も敢えて普段通りの口振りで話に乗る。返答を聞いた芳が、フッと目を細めて吐息だけで笑った。 「すぐわかるよ。英ちゃんと、そっくりだった」 「そうかな。小さい頃は似てるって言われることもあったけど、最近はそう似てるとも思わないんだけどね」  苦笑混じりの英司の言葉を、芳は「似てるよ」とあっさり笑い飛ばした。 「クールで、サディストっぽくて……優しそうなとこ」     
/233ページ

最初のコメントを投稿しよう!