第四話

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 サディストっぽいってのは内緒ね、と芳が場の空気を和ませるように茶化す。  姉はともかく、英司は自分が優しいなどという自覚はない。落ち着いている、だとか、しっかりしていると言われることはよくあるが、優しいなんて言われたのは初めてだ。  芳の目に、英司がそんな風に映っていたことを改めて聞かされて言葉に詰まる。  むず痒いような、少し気まずい沈黙の後、 「……俺も、この町に生まれたかったな」  数ヶ所雨漏りがするという、傷みの激しい天井を見上げて、芳がポツリと呟いた。 「前にも、似たようなこと言ってたね。故郷があれば良かったって。……帰る場所が無いのは、番になったから?」  今この話をするのはどうかとも思ったが、芳に出会ってから初めて、彼とまともに話をしている気がしたので問い掛けてみた。  英司と違って人当たりの良い芳は、誰とでもそれなりに上手く関係を築きそうなのに、その彼がここまで拒む相手とは一体どんな人物なのだろう。  これまでは、敢えて気に掛けないようにしていた。深入りするべきではないと告げる理性に、英司も素直に従ってきた。  だが、芳の発情期が来てしまった上、そのパートナーへの嫉妬心を自覚してしまった以上、どの道いつまでも目を背けてはいられない。     
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