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そしてそれは芳も感じていたのか、彼は目を伏せて一つ息を吐いた。
「……英ちゃんなら、知ってるかな。『運命の番』ってやつ」
思いもよらなかった単語が芳の口から零されて、英司は目を瞠った。
『運命の番』───互いの意思など関係なく、本能で惹かれ合う、番の中でも最も強い繋がり。
ただし、たった一人しか居ないとされるその相手は、発情期に出会わなければわからない為、そもそも遭遇すること自体が非常に稀だ。だから殆どのαとΩは自身の『運命』の相手に出会うことなく、その生涯を終える。
巡り合うことすら難しい『運命』のパートナー、なんて言えば聞こえはいいが、裏を返せば、出会ってしまうと番うことから決して逃れられない『運命』でもある。
相手がどんな人間であっても、出会った以上は番わないことを許されない『運命』。
発情期に苦しんでも尚、パートナーの元へ戻りたがらない芳。
自分の存在を消して欲しいという、彼の言葉。
「牧野さんのパートナーって、まさか……」
英司の中で、どす黒いパズルが次々に組み上がっていく。
「───そうだよ。俺とアイツ、その『運命の番』なんだ」
くしゃりと、芳が泣きそうに顔を歪めて嗤う。
真っ黒な最後のピースが、残酷なほど綺麗に嵌まった。
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