第四話

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 芳には、昔から『家』と呼べる場所が無かった。  Ωの母は元々身売りで稼いでいたこともあってか、男にだらしがなく、いつも芳より見知らぬ男に夢中だった。  幼い頃から何度か小さなアパートを転々としたが、どこも昼間より夜の方が賑やかな場所だった。  そんなアパートの部屋には、毎月のように違う男が居た。  与えられる食事は、いつもコンビニやスーパーの冷たいおにぎりや総菜に、菓子パンばかり。  それでもあれば良い方で、芳に無関心な母はそんな出来合いの食事すら用意してくれないこともしばしばあった。  息子の前だというのに、母は昼でも夜でも平気で男と身体を交えた。きっと母にとって、芳は着古した服みたいな存在だったのだろう。目に留まれば時折袖を通すけれど、着られなくなっても特に支障はない。  お腹が空いたと言えば、うるさいと怒鳴られた。だって服は喋らない。  芳が成長するにつれて、母は一層芳に目を向けなくなった。貧相で小汚い服に、興味など湧くわけがない。  だからアパートの小さな部屋は、芳にとっては単なる寝床でしかなかった。  そんな中、唯一芳の記憶に残っている男が居る。  母以外では恐らく一番長い期間、共に過ごした人物だ。     
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