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芳は芳で、母や周囲の言う事に笑って従っていれば、いつか父が戻ってきてくれるのではと思っていた。
けれど、芳が中学に上がっても、父が芳の元へ帰ってくることはなかった。
母もまた、アパートを空ける日が多くなった。
そうして中学卒業を二ヶ月後に控えたある日。友人たちと下校していた芳に、初めての発情期がやってきた。
何がなんだかわからないまま、公園のトイレに連れ込まれ、小汚い床に転がされた。
友人だと思っていたβたちに犯されたのだと理解したのは、意識を取り戻して、半裸の自分の汚れた下肢を見てからだった。
その瞬間、何だか色んなことがどうでもよくなった。
愛想よく適当に相手に合わせることに慣れていた芳は、人間関係もそつなく築いてきたつもりだった。
母がろくな人間ではなかったので、それを理由に揶揄われたり苛められたリしたこともあったが、笑ってかわしていれば相手もその内飽きていく。
代わりに親友と呼べるほど、深い付き合いの相手も居なかった。
どうでもいいやり取りをして、笑って「じゃあまた明日」と別れる、その程度の友人しか居ない。
けれど、それでも良かった。
ただ何となく日常を過ごして、ただ何となく生きていく。
母の元では、そんな生き方しか教わらなかった。
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