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だから芳が発情した途端、薄っぺらい友人関係は呆気なく崩れ去った。
芳は所詮、誰にでも合わせる、無難で安っぽい服なのだから仕方ない。そんな服に執着する人間など居ない。
どうせ誰も、芳の存在なんて気にかけていない。
アパートに帰っても、芳を待っている家族は居ない。温かい食事もない。あるのは精々、干されてもいない、未だに子供サイズの固くて薄い布団くらいだ。
発情期がきっかけだったのか、それとももっと以前からなのか。今となってはわからないけれど、自分の存在意義を見失った芳は、面白いことなんて何一つないのに、ヘラヘラと笑うことしか出来なくなった。
それっきり学校には顔を出さず、高校にも進学せずに、芳は幼い頃から馴染んだ夜の街をひたすら転々とした。
まともな飲食店でバイトをしたこともあったが、たまたま声を掛けられて身体を重ねた相手から貰った額の方が多く、バイトの合間に身体を売った。
───ああ、これじゃあまるで母と同じだ。
そう気付いたら、余計に笑いが込み上げた。
二十歳を過ぎてからは、風俗店で働き始めた。
最初は女性客を相手にする店だったのだが、Ωである芳は大して客も取れず、すぐに男性客専門の店へ移った。
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