第四話

10/26
前へ
/233ページ
次へ
 その頃には身体を投げ出すことに既に何の抵抗もなかったが、中にはΩを執拗に嬲りたいだけの厄介な客も居た。ヘラヘラしている芳は特にハードルが低いと捉えられたのか、その手の客に目を付けられることが多かった。  そういう客は羽振りも良かったが、さすがに肉体的に痛めつけられるようになると耐え切れず、芳はその都度店を変えた。  そして複数の店を経て、風俗に足を踏み入れてから五軒目にあたる店、『unlock』に採用が決まった。  渋谷の裏通りに店を構えるそこは、出張ヘルス───所謂デリヘルだった。  客はやはり、男限定。働いている人間も、大半がΩだった。  けれど『unlock』にはたった一人、αの男が居た。オーナーの、藤原克彦(ふじわらかつひこ)だ。  聞いたことがないから正確にはわからないが、歳は恐らく三十代半ば。  αの割には人相が悪く、いつも派手なスーツを身に纏っている。似合ってもいないアクセサリーを無駄にジャラジャラと身に着けているその姿は、ゴテゴテに飾り付けたクリスマスツリーみたいだった。  藤原は、男性客専門の風俗店を経営している割には大の女好きで、芳たちのような男のΩを日頃から卑下していた。給料だけは良かったので皆黙ってはいたが、芳たちを単なる商売道具としか見ていない、最低の男だった。     
/233ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2654人が本棚に入れています
本棚に追加