2654人が本棚に入れています
本棚に追加
そんなはずはない。きっと他に原因があるはずだ。だって発情が治まった今、藤原に対しては以前にも増して嫌悪感しかない。
変わったことと言えば、項に残された噛み痕くらいだ。
───こんなもの、怪我と同じだ。きっとその内、消えてなくなる。
そう言い聞かせて、芳はそれっきり藤原の元へは勿論、店にも戻らず、アパートの自室に篭って過ごした。
だが、もうずっと身体一つで収入を得ていた芳は、貯金などもなく、家賃が払えなくなるのも時間の問題だった。
ただでさえ社会的地位の低いΩが、無職で引き篭り生活なんて続けられるわけがない。
仕方なく、昔のように適当な相手を誘って身体を重ねようとした芳は、安いホテルで挿入された瞬間、全身をぐちゃぐちゃに掻き回されるような激痛と激しい吐き気に襲われた。芳の意思に反して、身体が勝手に相手を拒んでいるようだった。
自分の身体がどうなっているのかわからず、動揺しながら身悶える芳に驚いた相手は、着の身着のまま逃げて行った。相手が離れた直後、あれだけ激しかった症状は何事もなかったようにピタリと治まって、芳はいよいよ怖くて堪らなくなった。
絶対に辿り着きたくない答えに、じわじわと追い詰められている感覚。
最初のコメントを投稿しよう!