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いっそ観念して堕ちてしまえば身体は楽になると本能でわかっていたが、芳の心が必死に救いを求めて足掻いている。
やがて住む場所を失くした芳は、夜の街の喧騒に潜んで過ごした。小さな公園や路地裏で眠ることも、藤原の元へ戻ることに比べれば、充分快適に思えた。
けれど、第二の性というものは本当に厄介だ。
芳の都合などお構いなしに、また発情期がやってきた。
いかがわしい店が建ち並ぶ通りを発情したΩがフラフラと歩いていれば、普通なら無事では済まない。なのに、行き交う人々は発情期特有の熱を持て余す芳に、見向きもしない。
いっそ生まれて初めて発情したあの日みたいに、意識が無くなるまで滅茶苦茶にしてくれればいいのに、芳をどこかへ連れ込んでくれる相手は誰も居ない。
そうして気付けば、芳はずっと遠ざかっていた『unlock』の前に立っていた。
芳の意思じゃない。芳の本能が、ここへ───唯一の相手の元へ、芳を導いたのだ。
芳が藤原以外の相手を受け入れられなくなったように、藤原もまた女に手を出せなくなったのだろうか。
約三ヶ月ぶりに入った藤原の部屋は、酷く荒れて散らかっていた。
「なんでてめぇみたいな下等なΩを、抱かなきゃならねぇんだ」
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