第四話

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 芳の顔を見るなり忌々しげに吐き捨てた藤原に、ビールの空き缶がいくつも散らばったベッドへ乱雑に転がされた。生活も荒んでいたのか、藤原の目の下には濃いクマが出来ていて、人相の悪さに拍車をかけている。  溜まりに溜まった苛立ちをぶつけるように、前戯も無しにいきなり貫かれた。───痛みも苦痛も、微塵も無かった。  身体が壊れるのではと思うほど、どんなに激しく揺さぶられても、芳の身体は待ち侘びた快感に悦ぶばかりだった。  何度も達する芳の頭に、散々ネットで辿り着いた絶望的な単語が浮かぶ。 『運命の番』。  互いの意思など関係なく、本能で惹かれ合う、番の中でも最も強い繋がり。  こっちこそ、なんでお前みたいな男に抱かれなきゃいけないんだ、と頭の中には憎しみしかないのに、藤原と繋がった身体には快楽しかない。  ───これは、罰だ。  母と同じように、フラフラと適当な人生を歩んできた自分に下された、罰だ。  なら一体どうすれば良かったんだ。  誰も教えてなんかくれなかった。  ヘラヘラ笑ってでもいなければ、こんな人生やっていられない。  誰かを好きだとも嫌いだとも思ったことがなかった芳が、唯一藤原にだけは強い嫌悪感を覚えたのは、もしかすると芳の理性が必死で警告していたのかも知れない。この男にだけは近づくな、と───。     
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