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挨拶どころか、お互い視線すら交わさないのもいつものことだ。
藤原が、提げていたアタッシュケースを無造作に部屋の隅へ置き、そのままシャワーを浴びに奥のバスルームへ向かった。
数時間前、部屋を出て行ったとき、藤原は手ぶらだった。
───反社会勢力。覚醒剤。
物騒な単語が頭を過ぎる。
バスルームから水音が聞こえ始めたのを確認して、芳はそろりとアタッシュケースを開けてみた。
「………っ!」
中を覗いた瞬間、危うく声が出そうになって、寸でのところで飲み込む。
アタッシュケースの中には、ビッシリと隙間なく札束が敷き詰められていた。
───なんだよ、この金。
こんな大金を、一体どこから?
そもそもどうやって?
思わず大量の札束に目が釘付けになってしまったが、ふと見ると蓋の裏側には、白い砂糖のような粉末が入ったチャック付きのポリ袋が四つ、貼り付けられている。
「……なにコレ……」
どうして金と一緒にこんなものが…と手を伸ばしかけて、ハッとなる。
テレビでよく見る、警察のドキュメンタリー番組に出てくる覚醒剤に、似たような粉末があった。
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