第四話

24/26
前へ
/233ページ
次へ
 強い力で芳を無理矢理ソファから引っ張り起こした藤原は、芳の細い身体をベッドへ放った。そのまま発情期のときのように圧し掛かられてギョッとする。 「ちょ……俺、まだ発情期じゃないんだけど……!」 「そんなことは、どうれもいいんだよ。アケミ……いや、ミホらったかぁ……?」 「は……?」  呂律の怪しい口調で意味の分からないことを言われて、状況がすぐには把握出来なかった。  普段の藤原なら決して触れようとしない、芳の薄い胸を服の上からまさぐられ、そこでやっと、藤原の顔が不自然に紅潮していることに気が付いた。心なしか、目の焦点も合っていない気がする。  一瞬酔っ払っているのかと思ったが、芳が不愉快になるほど酒の匂いをさせていても、藤原がこんな風に酔っているところは見たことがない。それに何より、これだけの至近距離に居ても、藤原からアルコールの匂いは少しもしなかった。  発情期のときでさえ、こんな甘ったるい触れ方はしてこないのに、ありもしない芳の胸を揉みしだきながら、藤原は延々と知らない女の名前を呼び続けている。  ───まさか、さっきの薬……!  芳の予想を裏付けるように、藤原は「ああ、そうだ」と呟くと、どこか浮足立った様子で一旦ベッドを下り、ジャケットから先ほどの錠剤を手に戻ってきた。 「お前も飲めよ……気持ちいいぞぉ?」     
/233ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2655人が本棚に入れています
本棚に追加