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藤原が、一見すると市販の頭痛薬のようにも見える錠剤を、芳の顔の前に差し出してくる。
そういえばまだ藤原と番う前、客の男から『エクスタシー』と呼ばれる錠剤タイプのセックスドラッグがあると聞いたことがあった。そんなものに興味がなかった芳は何の気なしに聞き流していたが、謎の錠剤を勧めてくる藤原の下肢を見ると、下着越しにハッキリと彼が興奮しているのがわかった。
発情もしていない芳に対して、藤原がこうも欲情するはずがない。いよいよ藤原自身も薬に手を出し始めたのかと、全身から血の気が引くのがわかった。
いつも見ようとしなかったからわからなかったが、久しぶりに正面から見据えた藤原の目許は以前にも増してどす黒くくすみ、頬も少しこけている。
もしかして、芳が気付くもっと以前から、薬に手を出していたんだろうか。
こんな薬を服用させられたらどうなるのだろう。
藤原と番っているのはΩである自分であって、心だけは決して奪われて堪るものかと思ってきた。なのに、その心まで壊されてしまったら、自分は一体どうなってしまうのだろう。
あと半月ほどで、恐らく次の発情期が来る。
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