2592人が本棚に入れています
本棚に追加
/233ページ
第二話
「桜井さん、どうぞ」
看護師に呼ばれて診察室へ入ってきたのは、商店街で日用雑貨を扱う桜井商店の奧さんだ。数ヶ月前から高血圧の治療の為、定期的に通院しているが、この日は軽い眩暈を訴えて来院していた。
「今日の診察は、若先生ですか?」
向かいに腰を下ろした桜井の言葉を、単なる挨拶のようなものだと捉えた英司は、軽く頷いて受け流した。
「眩暈がするそうですが、いつ頃からですか?」
「ここ一週間くらいですかねぇ……。時々、軽い眩暈がするんです」
「今、座っている状態だとどうですか」
「座ってるとマシなんですけどね。ただ、立ち上がったり階段を上った拍子なんかに、軽くフラつくことが多くて」
ちょっと診せて下さい、と前置いて、英司は服の上から聴診し、口腔内と、念の為下瞼を押し下げて貧血の有無も確認する。
───どれも特に異常無し。
「頭痛や吐き気はないですか? 手足が痺れるとか」
確認した事項をカルテに書き込みながら問い掛けた英司に、「それはありません」と桜井が軽く首を振る。
意識や受け答えもしっかりしていることを確かめて、英司は待合で測ってもらった血圧の値が記された用紙を桜井に手渡した。
最初のコメントを投稿しよう!