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第三話
助手席に芳を乗せた英司の車は、来た道を途中で逸れ、舗装もされていない坂道を上がっていく。
緩やかな傾斜の先は林になっていて、更にその奥は車では立ち入ることが出来ない森が延々と広がっている。
「ちょ……ちょっと英ちゃん……? なんか、俺にはここも充分山みたいに見えるんだけど……?」
悪路の所為でガタガタと揺れる車は、完全な山道へと差し掛かっていた。芳が、シートベルトを握り締めながら不安げな視線を向けてくる。
「心配しなくても、もうすぐ着くよ」
「着くって、どこに?」
「貴方の寝床」
「いやいや、寝床ってさっきの神社の方がまだ快適じゃない!? 超大自然なんだけど!?」
「騒いでると舌噛むよ」
生い茂る草を掻き分けるようにしながら車を走らせ、数分走ったところでようやく目的の建物が見えてきた。
車のヘッドライトに照らされて、木々の間にぼんやりと浮かぶのは、台風でも来れば吹き飛んでしまいそうなトタン屋根に、簡素な板でぐるりと覆われただけの、古い小さな小屋。ここへ来るのは、もう随分と久しぶりだ。
小屋は勿論、周辺にも灯りなんて一切ない中、英司は小屋の手前で車を停めた。
「着いたよ」
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