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第四話
「気分、どう? 少しは落ち着いてる?」
ソファにぐったりと横たわる芳に、英司は一メートルほど離れた位置から問い掛けた。部屋の隅に積まれていた輪切りの木材を、スツール代わりに拝借している。
「……うん。さっきよりは、ちょっとマシ」
力なく頷いて芳はそう答えたが、相変わらず呼吸は苦しそうだ。
彼の細い腕には、英司が病院から持参した発情抑制剤の点滴が繋がっている。
あの後、抑制剤の点滴セットと、往診バッグを抱えて、英司は再び芳の元へ戻ってきた。
英司が離れたときのまま、草むらの中に横たわっていた芳に、英司はその場で点滴の針を刺した。極力手早く済ませたし、医療用の手袋もしていたので直接触れたときほどではなかったものの、その短い時間でも芳は苦しげに呻いていた。
本能がそうさせているのだとわかってはいても、英司を拒んで苦しむ芳の姿は、英司の胸を酷く掻き乱した。その間ずっと、芳が「ごめん」と繰り返すものだから、一層もどかしくて堪らなかった。
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