鬼哭《きこく》

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鬼哭《きこく》

 うちの近所に小さな防空壕跡がある。  今でも山や丘がある地域であれば時々目にすることがある,地主が農作業道具や資材置き場として物置に使っているような小さな防空壕跡だが,うちの近所の防空壕跡には昔から太い鉄格子が取り付けられ入口に目立つように「立入禁止」の看板が設置されていた。  その防空壕跡のある土地の所有者は近くで畑をやっている古い農家だが,この一帯は昔から管理されず荒れ放題だった。  近所の子供たちは,誰もがここに防空壕跡があるのは知っていたし,俺も子供の頃は友達と入口まで行って鉄格子の間から中を覗いたりして遊んでいた。子供たちにとっては,ちょっとした肝試しくらいの感覚しかなかったが,年寄りたちはこの防空壕跡がある土地を露骨に避けていた。  噂では,この防空壕に入ったら生きては出られないと聞いたことがあったが,それは大人たちがここで子供たちに遊ばせないための作り話だとみんなが思っていた。  それに昔からずっと,ここで事件や事故があった話など一度も聞いたことがなかった。
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