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雪が吹き荒ぶ、風の中。
彼女はひたすらシャッターを押す。
カシャッ。
カシャッ。
暫くそうしていると、突然口を開く。
A「ここで、七国目ね」
B「そうだね。次はどこに行く?」
彼女は少し考えた後、カメラから視線を外しこちらを見る。
頭に乗った雪を払いながら。
A「次は暖かい所が良いわ」
そう言って肩をすくめた。
B「ははっ、そりゃいい。僕も連続して寒いのは勘弁だ。南に行くとしよう」
A「いいわね。あえて国は決めないで行くの?」
B「ああ、その方が楽しいだろ?」
A「……貴方はいつも楽しそうで羨ましいわ」
呆れたような顔をする、彼女の口から白いと息が零れ、空に消える。
それを見つめながらボソリと呟く。
B「君が居るなら、どこだって楽しいさ」
A「え? 今何か言った?」
B「いや、なにも。それよりお腹すいたよ。宿に戻って暖かい物を食べに行かないか? ボルシチがおいしいって聞いたよ?」
すると彼女はカメラを除きながら、独り言の様に……しかし、しっかりとこちらに聞いて来た。
A「こうやって貴方と旅を何年続けられるのかしらね」
B「どうしたんだい突然。大体僕らに時間なんて無制限にあるんだ。それこそ余りあるくらいだよ」
A[……そうかしら」
B「そうだよ。なんせ僕らはまだ若い。人生の終わりを悲観するにはまだ早いさ」
A「貴方がそれを言うと皮肉ね」
眉を少しだけ歪ませてみる彼女が面白くて、つい意地悪な笑みを浮かべてしまう。
B「嫌いかい?」
すると彼女は、少しだけ顎に手を当てて考えると、こう答えた。
A「それほど嫌じゃ、ないわね」
B(そう、僕らには時間がある。きっとどちらかが先に居なくなる。けど、その時までは一緒に居よう。人と不死人の二人を別つまで)
どちらかが不死で、どちらが人かなんて関係ない。
今この場に、僕ら二人しかいなければ、寿命の差なんて意味が無い。
どちらかが生き、どちらかが先に逝き。
それだけの事だ。
できるなら、この時間がもう少し長く続けばいい。
手の平に落ち、溶け行く雪を眺めながら、僕はそう願った。
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