第1章 父と母

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 限られた二人の時間の中で、私は授かった命としてやってきた。  物心ついた頃には、私はお母さんのお荷物になってはいけないっていう覚悟は出来ていた気がする。会ったことのないお父さんと交わした約束のような、そうした誓いを立てていた自分が不思議だなって思う。  余命少なくて、会えるかどうかもわからない子との接触は、お母さんが妊娠していた期間だけ。その間中、お父さんはいつも私に話かけてくれていたそうだ。結構早い段階から、夏鈴という名前を決めていたから、その名で胎児の私に向かって呼びかけた言葉がある。 「僕たちの子に生まれてきてくれて、嬉しいよ」  子供ならきっと誰もが嬉しくなる言葉だと思う。ここに、お父さんと言う人柄がよく表れているし、お母さんは生死に関わらずお父さんを尊敬し愛し続けていられる理由も何となくわかる気がした。  眠りながら、晴馬の手はいつも私の下腹に乗せられて、掌の熱で温めてくれている。晴馬と一緒に暮らすようになってから、私の生理痛はぐっと楽になったのは、この手の力かな…。  本当に私のことを大切にしてくれているって感じるから、余計に大好きなんだ…。 「いつか、私達の赤ちゃんが授かりますように」  小さな声で祈りながら、寝顔の晴馬にそっとキスをした。
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