第2章 父と子

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 夏鈴の就職祝いと二十歳の誕生日になにを贈ろうか、ずっと考えてきた。俺の三倍は精神年齢が高い彼女が喜ぶものはなんだろう?  腕時計とか指輪とか財布とかバッグとか、そんなものは要らないって言うから。夏鈴が本当に貰って嬉しいものを考えるのは、すごく大変だ。でも、大変な分だけ楽しいけどな。  結婚式で贈ったのは俺の下手くそな絵で描いた絵本。十四年前に二人で練り上げた童話のパロディだけど、俺は気に入っていて覚えていた。ヒロインを食べるはずのオオカミの正体は実は王子様。最初にそう言い出した夏鈴の想像力と、敵と味方を逆転させちまう自由な発想にワクワクした気持ちが記憶に焼き付いていた。  学校の勉強が退屈だというから、面白いことをしようと言って始めた童話のパロディ作り。俺達は息が合っていた。この遊びは実は親父が小さい頃に、俺に即興作り話をしてくれたことがヒントになっていた。  最近、親父のことを思い出す機会が多くなっている。火事の夜はおふくろと大喧嘩して、慣れないぐらいやけ酒飲んで、火事になっても逃げられなくて…。そんな格好悪い死に方ったらないよな。  あの人は、幸せだったんだろうか?  あんな死に方のせいで、その前の沢山あるはずの思い出も家と一緒に燃えてしまったかに思えたけど、ちゃんと思い出すものなんだなって驚いている…。
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