第1章 父と母

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 結婚式で私のために描いた紙芝居以来、芸術家晴馬が覚醒した。  高校の美術教師っていう職業柄もあるんだろうけど、今回は私が成人する記念の肖像画を描きたいって言ってくれたから、喜んでお願いしたのは良いけど。まさか、写真に撮ってからの絵興しではなくて、晴馬の場合は実物をちゃんと見てデッサンするというアナログな手法だから、モデルはひたすら静止して描かれるまで同じポーズを取らねばならない。  見詰められるって結構刺激的で、色んな意味で辛かったりする。  晴馬にとって今の私は静止画の対象物だから、角度を修正するときだけ触れにくるけどあとは一定の距離を保って、ただただじっと見つめてはイーゼルにセットされた大きな画用紙に線を入れた。  筋肉が強張ってきて、疲労感を感じていた。気を抜くとカタチが崩れる気がして、呼吸も浅くなる。  じっとりと汗が滲んでくる。 「ごめん……あと1分だ。悪いけど、がんばって……」 「……うん…」  B4からHの幅の鉛筆デッサンで描く人物画。そこに着色していく段階の考えると、この工程は一ヵ月はかかりそう。  週末しか作業できないし、それに私の体力が一日あたり一時間が限界。  こんな風にモデルになって初めて気付いたけど、静止するって物凄い体力がいる。  最初は十分ごとに五分程度の休憩を入れていたけど、段々とその間隔は伸びていった。晴馬のお願いだから、視線だから、私は耐えられる。
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