第1章 父と母

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 ふわりとした優しいキスをして、次第に熱を帯びると深くて激しいキスになっていく。  余裕を見せた晴馬から余裕がなくなり、夢中になって私に吸い付いてくる顔もすごく可愛い。三十歳になっても晴馬は晴馬だった。落ち着いた大人の男性とは遠くて、私の前ではやんちゃな男の子みたい。自分のしたいことには正直で、甘えん坊で、私を楽しませようといつも工夫してくれる。  エッチの時だけ「お兄ちゃん」というのは、どっちかと言えば私の願望だった。  出会って半年が経った時に、私が高熱を出した辺りから呼び方が今の「晴馬」に変ったんだけど、変ったきっかけは彼があまりにも悪戯小僧だったからだ。  しつこいぐらいに指一本で身体をくすぐってくる。はじめはそんなに感じなかったはずなのに、いつの間にか晴馬の人差し指だけが立った手を見ただけで、脇の下やお腹がくすぐったくなって逃げ出すと、晴馬は部屋の隅まで追いかけてきて、指一本でくすぐるのをやめてくれなかったある日。  笑い死にしそうになって、私が逆切れしたときに、つい呼び捨てで怒鳴ったんだ。 「晴馬のバカ!!」  あの時の晴馬の顔は、忘れられない。  名前をダイレクトに呼ばれるって、そんなに嬉しいものなの? って思うぐらいに、彼はめちゃくちゃ嬉しそうに笑って「今日から、俺のことを呼び捨てにして」って言い出した。  私をわざと怒らせるのも好きだった。怒っている私を見て、ニヤニヤ笑う。今とそんなに変わらない笑顔で…。  そして、今じゃ彼の指一本は違う意味で私を追い詰めた。
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