一章 屈辱の先

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 家を出て殆どの人間が慌ただしく駅に向かう中、俺は駅手前の路地に入った。  まさかこんなに職場が近いとは……通勤電車に憧れていた訳ではないが、いまいち新天地へのモチベーションが上がらない原因の一つにはなっているだろう。    路地に入り、三百メートルほど進めば右手に五階建ての小さなビルが見えてくる――。  その三階に有る一つのフロアが、これから毎日通う俺の職場だ。  周囲の建物にも似た様なビルが幾つか立ち並び、その間にコンビニやラーメン屋、喫茶店などが点在している。  時間に余裕もあったので、歩くスピードを落として、朝からすでに昼飯の事を考えていると、後方から猛スピードで走る女子高生に、俺は追い抜かされた。  彼女の走る姿は陸上選手の様な美しいフォームで、あっという間に百メートル位先まで行くと、右側のビルに消えた――。   「え? あそこは俺の会社があるビルだよな?」  彼女の通った道を辿ると、やはり自分の会社が入っているビルの前に着いた。   ビルには、俺の会社以外にも他の会社が入っているのだが、何の面白味もない所ばかりで、女子高生が好んで入る場所にはとても思えない……何の用事があるのだろうか?      俺が入り口の自動ドアを通り、ビルに入ろうとすると、一階フロアの奥にあるエレベーターから、さっきの女子高生が降りて来た。  一瞬目が合った様に感じたが、彼女は表情を変える事も無く俺とすれ違うと、また猛ダッシュで来た道を戻って行った。   「可愛くない奴だな……」そう思いながらも、俺は頭の隅で女子高生の姿を思い出し、脳に焼き付けていた。  長く艶やかな黒髪に白い肌。きつめだが整った顔立ちからか、凄く大人びた印象を受けた。それは紺のブレザーに緑のチェックスカートと言う、定番でもある女子高生の制服にさえ違和感を持つほどだ。    加えて不思議に思ったのは、彼女の手には、自分の会社名が書いてあるA4サイズの封筒が握られていたからだった。 「何なんだ?」俺は首を傾げながら、エレベーターのボタンを押した。     
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