三章 死神工場

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 工場の内部は、元いた世界とあまり変わらなかった。  小学生の頃に行った社会科見学を思い出す――二階からガラス越しに見下ろすその先で、醤油がボトル詰めされているのを、興奮しながら当時の俺が見ていた記憶だ。  此処でも目線を下に向けた先では、機械やロボットが作業をしていた。 「工場ではこの様に、一番最初に再生可能な魂と、その他で分別をします」  箱姿のサマーがプカプカと浮かびながら前へ進む。 「次に再生可能な物を聖水で洗い、後は一つ一つ手作業で、不純物や記憶を取り除きます。特にこの作業場には多くの死神が必要なので、こうした姿でお互いの邪魔をしない様に、作業をします。元の姿で鎌を振り回していたら、危ないですからね」  再び下を見ると、魂を洗う機械の隣には黒い箱型をした死神達が、長いテーブルの前に隙間なく一列に並んでいた。そのテーブルの上には、青白い雫の形をした物体が山の様に積まれている。  箱から伸びた、枝並みに細くて真っ黒な手が、魂らしきそれを一つ取り出して、小さな鋭い刃が付いたカッターの様な物で擦ると、カラフルだが塵状の物質が次々と吹き出した。 「サマーさん、取り出した不純物はどう処分するのですか?」  真剣にメモを取りながら、薫が質問をする。 「いい質問ですね。皆さん記憶の方に感心が行きがちですが、実は不純物も捨てずに再利用され、悪魔が食べる魂に使う調味料になります。チョッとした憎しみや欲がアクセントになるのですよ。そうする事によって悪魔も味に飽きずにいられますし、余計な悪さもしませんからね。まあ、今は違うかもですが……」  本当に元の世界と似ているな……しかも無駄が無いし、まさしくエコだ。ただ、扱うのが人間の魂か……。  どうにも複雑な気分だか、俺は目の前にある事実を理解したい気持ちの方が、今は勝っていた。
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