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「二人とも、ずいぶん臆病ね」
後から来た薫が、通路を挟んだもう一つの席に着いた。
「それにしても、食事時間の変更報告はちゃんとするべきだわ! 義務でしょ!」
悪魔が魂を食べ始める時間は、決められている。常にあの悲鳴が聞こえていると、流石に五月蝿いと言う理由からだ。
たまに開始時間の変更があるらしいが、その時は魂の受け渡しと時間が被らない様に、事前に死神へ報告しなければならない。
悪魔が大人数で一斉に食事をすると、死神ですら危険だと言う。
「おや? そんな事を言って、薫さんがギリギリに来るとは珍しい。昨日の見学が怖くて、布団から出られなかったのでは?」
大蔵がおちょくるように言うと、薫が少しムッとした顔でこちらを向いた。
「違うわよ! 大した訳でも無いケド、やっぱり自分の好きなブランドまでは、用意してくれなかったわ! こんなひらひらした格好……普段はしないから、服が選びにくいのよ!」
「なんだ、服か。でもそう言えば薫、成績は優秀なのに格好は派手って言うか、ギャルっぽかったよな?」
「成績とファッションは関係無いわよ! 格好位、自由にさせて欲しいわ!」
「でも、似合ってるよ? その服……薫は性格抜きで見ると、顔は可愛い方で品もあるし、どちらかと言えば清楚系の方がいいと思うよ」
俺は的確な意見を述べたつもりだったが、薫は「余計なお世話よ!」と顔を赤くして怒ってしまった。
「また怒らせてるし……」と大蔵が笑う。
これだから女は扱いに困る――今までも何人か付き合ってはみたが、女の方から告白しておいて、いきなり理由もなく振られる意味が解らない。
「優しくしてくれない」とか「私の気持ちが分かっていない」だの言われたが、結局可愛い自分を大切にしろ――と言う、単なるわがままでしかない。
こちらもそこまで気を使って付き合うのも面倒なので、俺は『去るものは一切追わない』主義になった。
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