君はクロノスに愛されたのか

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「カメラって真実を写すものだと思っていた」 束の間、君の吐息が白く形を成して空に解けて行く。 「想い出だと言いたいのかね」 「それも違う。切り取るのは時間」 「嗚呼、シャッターの露光時間の事だね」 「うん。とても小さな時間を閉じ込めているのよ」 面白い表現だなと思う。君は時に突拍子のない事を言い始める。 この寒い最中に雪景色を撮りたいと告げて来たのも。 「人には認識出来ない短い時間をだね」 実際カメラのシャッター速度は、千分の一秒以上に小さな値になると人の目には見えない決定的瞬間を捕らえる。その目には出来ない奇跡を写したくて、カメラを構える者も多いだろう。 「プランク時間って知っている」 「否」 「物理的意味を持ち得る時間の最少単位。そこまで小さな値になると、時間も連続したものじゃなく飛び飛びの値を取るんだって。不思議よね。時間は繋がっているものだと私達は思っているし、過去、現在、未来へと連綿と続くものだと疑い様のない筈なのに」 「手ブレの言い訳なら、今日なら『寒いから』と告げた方が信憑性を高く出来るぞ」 最近のカメラは補正機能も有りお陰で手ブレの問題も少なくなった訳だが下手の横好きと言う奴なのだろう。何時だって君の撮る写真は被写体がブレる。 「二進法の0と1と同じ、間の時間は存在しない小さな単位。0,3とか0,7は存在しないの。私ね、それでも飛び飛びの時間の間には何があるのだろうって考えた。例えば時間がこの雪の欠片みたいなもので、その隙間を埋めるのが今、私達の立つこの空間だとしたらって。ねえ、こうやって雪景色を眺める様に、全ての時間を見渡せるんじゃないかって思うの。見てみたいなって思わない?」 こちらの茶々を気にもせず、語るだけ語った言葉が脳内に再生される。 意識していなかった会話。殆ど意味の分からない内容。
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