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辺りを見渡す。
居ない。君は存在しない。
降り積もった雪の上には途切れた足跡。
その痕跡も空からの贈り物に覆い隠されて行く。
「何処に居る」
焦った声が口から零れた時、声が聞こえた。
不思議な響きを伴い。
否、これは聞いてなどいないのかも知れない。
それは、ただ届いて来る。
過去から、未来から。今、この場所から。
あらゆる全ての狭間から。
感動を抑え切れない声が、君の声が届く。
息を飲む気配すら感じるのに、君の居場所が分からない。
『素敵、圧巻だわ。全てが見渡せる。過去も、今も、未来も。ああ、でも駄目。時が在るから私達は存在出来るのね。私、解けて……』
なんだ、それはどうした意味だ。
どんなに待っても君の声が、伝わって来ない。
痛い程の寒さの中、澄ました耳に届くのは無数に舞い降り重なる小さな雪の奏でる幽かな音。
呆然と私は、カメラを構えた。
もう一度同じ行動を繰り返せば、君が戻って来る気がして。
ファインダーを覗き理解した。
……こんな所に。
けれど君はもう、時の狭間に解け戻らないのだろう。
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