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僕は、そんな許しのような言葉に甘えて、トモキに視線をむけた。
トモキの閉じたままの目の端に、笑い皺が寄っていた。
「辞めたいって思ったことは、たくさんあったけど、それでも、みんなが頑張ってる声がきこえるから、僕も頑張りたかった。何か一つでもいいから、頑張りたかった」
そういって、トモキは僕らに力強くうなずいてみせた。
「がんばったよ。みんなに支えられて、がんばって、ここまでこれた」
有体にいえば、良心が痛む、っていうやつのなのかもしれない。
僕らにしてみたら、有罪判決を受けているようなものかもしれない。
居た堪れなくなって、重苦しい空気にもがいていた僕は、
トモキはどんな空が見えるの?
と、きいてみた。
するとトモキは、まるで恥ずかしがるような素振りで鼻をかいた。
「トモキ、って、朝に、希望って、書くんだよ」
そう言われて、『塚本朝希』そんな字だったなと思い出す。
トモキはかぶりを振った。
「朝なんて視たことない。今だってなんにも視えない。僕は空を一度も視たことがない」
だから、トモキがどうしても初日の出を見たかったのかもしれない。
視れないでも、初日の出の雰囲気だけでも感じたかったのかも。
朝を見てみたかったんだ。
「だけど、」
とトモキは続けた。
だけど、なんだろう。せめて、あの太陽の光があったかいってことくらいでもわかってくれたなら、僕らは、僕はきっと、トモキから救われるのかもしれない。
だけどトモキは、自分の感じたことを言葉にするよりも先に、僕達にむけて、まっすぐに両方の手の平を差し出した。
「みんなの向こうに、空が見えるよ。おおきくて、おおきくて、すごくおおきな。色なんて知らない僕だけど、この手の向こうが、みんなの向こうが、みんなが言ってる、キラキラしてる、っていうふうに見えるんだ」
僕は振り返った。
みんなも同じだった。
そして空を見上げた。
トモキの見ている空は、本当にキラキラしていた。
太陽がうっすらと積もった雪を輝かせていた。山の稜線の白化粧だっても輝いている。光の軌跡が波を打つように、まるで世界の端から端まで輝いていた。
「きかせてよ、みんなの空を」
〝青い〟空を染めるようなあの〝黄金色〟の空を、僕はトモキになんて教えてあげよう。
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