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「飯島!?」  突然頭上から響いた声にはっと振り返ると、同じく油絵具のかばんを下げた早崎が、驚いた顔で階段の上に立っていた。そして、ほとんど一気に飛び降りる勢いで俺の前まで来ると、「大丈夫か!?」の声とともに、俺を起き上がらせる。  久しぶりの早崎の手と腕に、思わず顔がかっとする。「だ、大丈夫っ!」いきなりすぎて、耐えられず、突き飛ばすと早崎は、「なんだぁ、けっこう元気じゃん」と笑った。それから、「うっわぁ、派手にぶちまけたなぁ」と苦笑を浮かべ、絵の具を一つ一つ拾ってくれる。  慌てて俺も自分の周りの絵の具を拾うと、「ほらよ」と早崎が拾った分を渡してくれる。微かに触れた、その指先にまで、俺は胸がどきりとする。俯いてしまうと、早崎は「飯島ってさぁ」と言う。  その声に目だけ上げると、早崎は俺の手を見つめていた。 「手ぇ、ちっせぇよなぁ」  いきなり何を言うんだ、と思っていると、早崎は不意に笑って「なんか、いいなと思ってさ」と言う。  そのときの俺の心拍数の上昇といったら、よくぶっ倒れなくてよかったと思う。早崎はちょっと照れた顔で、階段を駆け下りていく。  もしかして、と浮かんだ。  そうだ、この時層では、俺は、女子なんだ。それなら、もしかしたら……、いや、女子なんだから、告白したって、不自然ではないはずだ。  早崎に。
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