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 早崎は、照れ臭そうに首の後ろに手をやる。その頬はわずかに赤い。そして、なぜか俺の、のぞみの顔をじっと見つめてきた。 「俺、飯島のこと、好きだよ。そう言ってくれて、すっげー嬉しい」  だけど、となぜか早崎はいきなり泣きそうになった。 「でも、ごめん。いまは、飯島と付き合うことはできないんだ」  いまは? その言葉に、なんて返せばいいかわからない。はっきりしているのは、振られた、ということだけ。  考える暇もなく、俺は走り出していた。こういうとき、身体って頭より早く動くんだな。知らなかった。  涙でぼやける視界で、ひたすら走っていると、いきなり目の前に女性が現れた。あんまりびっくりしたので、泣き顔の恥ずかしさも忘れて真正面から見つめると、女性はにっこりと笑い、胸ポケットから手帳を取り出した。 「TLP日本支部所属、山下雪乃です。あなたを救助しに来ました。これからあなたを、元の時層へ連れていきます」  それを聞いたとき、俺は情けないことに腰から力が抜けてしまった。 「大丈夫?」 「すみません、ちょっといっぱいいっぱいで……」 「ごめんなさいね。あなたの時層落差数値ったら、1.592653もあったものだから、落下時層の特定に時間がかかってしまったの」  いっぱいいっぱいなのは、失恋直後の救出なのだが、そんなこと知りもしない山下さんは、TLPの一員として気遣い溢れた言葉をくれる。それから、ポケットから球体の装置を取り出す。それについたボタンをいくつか操作すると、俺に向かって差し出した。 「これに手を当てていて下さい。いまから、時層移動します」  俺は頷き、手を伸ばす。早崎の悲し気な顔を思い浮かべながら。
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