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Special Thanks 親愛なる我が友 瀧本無知
目が覚めるとそこには、女の身体があった。
いやいや、俺はまっとうな高校生で、しかもひた隠しにしておりますが、ゲイでございますので? なにも一晩の過ちがあったわけではない。
自分の身体が、女になっていたのだ。叫び声が甲高い女子の声で、またびっくりする。ショックでベッドに倒れ込んだところで、枕からむせかえるほどのフローラルな香りに、怖気がはしって、飛び起きる。そのとき胸の上の脂肪のかたまりがぷるんと震えたのを感じて、顔を覆った。
ああ、ストレートの男子なら、嬉しいんだろうな。時滑り、ラッキー! みたいな。だけど、俺は、ゲイなんだよ! しかも、女子は苦手よりの!
必修で習った時滑りの場合のことを、必死で思い出そうとする。自分の時層から離れた時層に滑ってしまうほど、異変は大きくなる。
俺の場合、性別が変わってしまっているのだから、かなり大きな時滑りに遭ったと考えて間違いないだろう。
それから、それから……、そうだ!
俺は勇気を持って部屋を出ると、そろりそろりと階段を下りていく。
かなり時滑りしたっぽいけど、家は俺の家とまったく同じ構造だった。リビングの扉を開けると、ニュースを見ながら朝食を頬張る父親と、せっせと弁当を包んでいる母親。
どっちも俺の親と同じ顔なので、ほっとする。
「のぞみ! まだ着替えていないの?」
「その前に、さて、問題です。1945年の8月6日と9日といえば?」
「広島と長崎に原爆が落ちた日でしょ」
「ちなみに、レオポルト・インフェルトの世紀の大発見と言えば?」
「誰、それ?」
「以上! 朝の頭の体操でした! 急いで着替えてきま~す!」と有無を言わさず階段を駆け上がる。
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