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 その原因はいまだにはっきりとは解明されていない。けれども、時層を認識する世界において常識となっている有力説は、時間旅行の失敗による時盤破壊が原因、ということだ。  つまり、未熟な技術で時間旅行を試みた結果、時盤を揺るがして、思いがけない時層のくずれ、つまり時滑りが起こってしまうようになった、ということらしい。  はい、ここで問題。では、時層を認識していない世界で、たまたま時滑りをした人間が、ぺらぺらとその知識をひけらかしてしまったらどうなるでしょう? ただの高校生だってわかる。へたに科学者がとびついてきて、さらなる時盤破壊につながりかねない。  よって、故意の時間旅行または時層移動は国連によって厳しく禁止されており、日本刑法でも極刑に定められているし、各国でも厳しい罰則が設けられている。また、被害者であったとしても、悪意にその知識を広めれば、罰されることはまぬがれない。  だから、時滑り被害者には、先の二つの事項をなるべく自然に質問し、その時層がUTLWかどうか、真っ先に確認するように義務付けられている。  また、時滑りした先の時層がUTLWであった場合は、自分が時滑りしてきた人間だと、悟られないように行動しなければならない。  時滑りしてしまえば、一生その時層の人間として生きなければならないのか? その問題対策として、国連はTLP、Time layer Policeを設立し、加入国に各支部を設けさせている。  TLPは唯一緊急避難的に時層移動を許されている機関で、また、常に時層の観察を行っていて、俺みたいに時滑り被害者を発見し次第、どの時層まで滑って行ってしまったかを探索し、可能ならば救出してくれる。  ……そう、可能ならば。  時層落差数値というものがある。これは、各国のTLP支部から寄せられた、時滑り被害者の時層落差と救出実績のデータを統計処理して得られた、救出確率の目安となるものだ。  自分のいる時層が起点、つまり0だ。TLP公式では、救出例が極端に少なくなる臨界時層落差を1としている。  俺は、自分の時滑りした先がどれほどの落差かわからない。だけど、性別が転換してしまっているので、かなり遠い時層に滑り落ちてしまったと推測できる。もしかしたら、時層落差が1を超えてしまっているかもしれない。
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