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 それは下手したら、一生女子高生「のぞみ」として生きていかなければいけないかもしれない、ということ。  絶望的な気分で登校し、靴箱の場所が俺の時層と同じ場所だったのにちょっとだけ喜んで上履きを出そうとしたとき、俺の鞄をかるく身体をぶつけて後ろを走り去った人物がいた。 「早崎!」  思わず声を上げると、早崎は怪訝そうな顔で振り返り、俺は俺で慣れない自分の女子の声にはっと、口元を覆う。  早崎進は、俺の大親友。そして、心ひそかに恋をしているクラスメート。表面上仲のいい男友達を装っているけれど、一目見ればそれだけで嬉しい。それこそ、時滑りしてしまったことを忘れて、声をかけてしまうくらいに。  高校生なのにもう成人男性と同じような体格をした早崎は、そんな身体に似合わないベビーフェイスでにっこりと笑う。 「めずらしいじゃん、飯島が声かけてくるなんて。しかも、呼び捨てとか」  俺の胸はきゅんとする。高校生の男女の溝は深い。それを軽々と超えられるのは、一部のリア充だけだ。残念だけど、俺はそっち側には属していないし、この時層での飯島望もどうやらそうらしい。髪の毛は素っ気ないストレートで肩くらいの長さだし、鞄の中には文庫本。これは有難かった。俺の趣味も読書だから。  けっこう時層が違っても、共通点って多いんだな、と思った。……性別違うけど。  違う。そんなことを考えて現実逃避している場合じゃない! このまぶしい早崎の笑顔を、いったいどう切り抜けるかだ。  俺の性格は、正直言ってしまえば陰キャ。だったら、どうせ「のぞみ」も、教室では本を読んでいる陰キャなはずだ! なので、俺は目を伏せ、靴箱の扉で顔を隠した。 「なんだよ、飯島。もう話さないのかよ。相変わらず引っ込み思案だな!」  そのとき、早崎を呼ぶ他の男子の声が聞こえてきて、早崎は元気よくそれに返事をすると、駆けて行ってしまう。  俺はその後ろ姿を切なく見送った。
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