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俺の時層なら。いま一緒に、教室に向かって行ったのは、間違いなく俺なのだ。 俺は、休み時間はそれこそひたすら本を読んでいるタイプ。それを、今年初めて同じクラスになった、あの早崎が声をかけてくれたことで、ちょっと充実した高校生活をおくれるようなったのだ。  はじめて、同級生とコンビニに寄った。カラオケに誘われもした。そんなささいなことが、俺にとっては本当に大きな変化で、それをもたらしてくれた早崎進という男に、俺は心底惚れているのだ。  ……けれど、この時層で俺は女子だ。だから、そんなことは叶わないのだ。  俺は急に鼻の奥がつんとして、校舎の裏手の方へ行った。俺の時層なら、まず人が通らないこと。ここの時層でも学校構造は同じらしいだろうから、きっと人は通らないだろう。  俺は、忌々しいスカートが汚れるのなんかちっとも構わずに、ずるずると座り込むと、本当に漫画みたいに膝を抱えてみた。  時層落差が少なければ、救助は数時間でやってくるという。けれども、時層落差が大きければ大きいほど、救助隊の時層捜索は困難になり、救出は難しくなる。授業で受けた内容によれば、時層救助隊がくるとしたら最大日数は一週間、と考えておくのが妥当、ということだった。 つまり、一週間。一週間経っても救助隊が来なければ、俺は一生「のぞみ」のまま、ということだ。 「……嫌だ」  俺の喉から「のぞみ」の声が漏れる。それさえ忌々しい。  俺は、俺の毎日を愛していたのだと、今更になって思い知る。いや、違う。俺は、早崎との日々を愛していたのだ。  ふと、涙が頬を伝った。  早崎の腕が、俺の肩にまわる。なあ、飯島、と俺の名を呼ぶ。俺はそんな些細な触れ合いにも胸を高鳴らせて、でもそれを悟られないように、この日々を壊さないようにしながら、なんだよ、早崎、と答える。そうすると必ず、早崎はにかりと笑うのだ。  あの笑顔が、俺のすべてだった。それ以上なんて、求めない。ましてや、今は。  予鈴が鳴る。でも俺は、立ち上がる気にはなれず、止まる気配のない涙を、両手で拭い続けた。
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